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手術を終えて

2〜3時間の予定だったカテーテルアブレーション。事前の調べでも2〜6時間程度とされていた。

まさかの9時間。

オペが終われば病室でお昼ご飯が食べられると思っていたし、デイルームで待機していた相方だって午後には自宅に戻るつもりだったはずだ。

昼を過ぎても戻らない。心配になって看護師さんに聞いたそうだ。

「まだ終わりませんか」

「戻らないですね、連絡してみます」

「難航しているみたいです」

難航しているという報告がないまま待たされていた。難航しているという曖昧な表現で報告された。

「何かあったのでは」「このまま死ぬのでは」

思うのも無理ないこと。だって、心臓の手術だもん。

医療に携わってる私は「簡単なオペ」として捉えていたけれど、そうじゃない人からすれば「心臓の中を焼く」という字面から壮絶な手術を想像するだろう。

確率は低くても死亡例だってある。

多分ね。

患者さんによっては「どうしてこんなに時間がかかったんだ」とか「こんな長時間でダメージが残るかもしれない」とか「何の報告もしてくれなかった」とか、騒ぎ出す人もいるかもしれない。

実際、X線の装置を使って行う手術だから、場合によっては被ばく線量だってあがるのかもしれない。

術中ずっと眠らされているとすれば、呼吸管理にも金額がかさむ。それだって文句を言う人はいるかもしれない。

だけど、あの場で、意識が鮮明なままオペが行われていたからこそ見えたものがあった。

あれだけ沢山のスタッフが、飲まず食わずでずっと私ひとりにかかりきりになってくれてた。

何度誘発しても消えない頻脈発作。途中までアブレーションして、次の患者さんが控えてるからあとは諦めよう、でもよかったんだと思うんだ。少なくとも私は文句言わない。

だけど先生は、何度もアブレーションして、誘発して、またアブレーションして、確実に焼き切ったって思えるまで粘ってくれた。

先生だってスタッフだって被曝の恐れもあるはずなのに、9時間も。

血圧が下がればみんなで「大丈夫?気持ち悪くない?」と、無駄に覚醒してる私を心配してくれた。

暑い、と言ったらすぐに誘発を止めてくれた。

電極1つ貼り付けるのにも「ごめんなさいねー」と皆が口癖のように気遣ってくれた。

そういうひとつひとつを、全部知ってて聞いてて覚えてる。あんたのためにやってるんだから我慢しなさい、みたいな感じを、ひとつとして受けなかった。

眠れなくて辛かったけど、結果的にはとてもよかったと思う。

一度の痛みで、一度の傷で済むように。

皆がそう思って動いてくれていた。感謝しかない。

母からのメール。

「先生には感謝しています。大切な娘をかえしてくれてありがとうございます」

私が頻脈の症状に見舞われるようになった小学生の頃から母は、自分の娘は「過呼吸」なのだと思っていた。医者もそう言っていた。成長すれば出なくなるとさえ言われていた。

なのにいつになっても良くならなくて、中高とバレー部でエースを任せられていたのに、発作が出ると目の前が真っ暗になるからベンチに下げてもらうような、壊れかけの娘だった。なんなのか分からない爆弾抱えてるみたいで、私以上に母は不安だったはずだ。

このメールは私宛にきたものだから、先生にわざわざ伝えるつもりはない。

母からしてみたら、娘が心臓の手術を受けるなんて、身を削られる思いだったはず。

「手術が終わった」

その連絡を待っていたのにいつになっても連絡がこなかった。もう2度と娘に会えないんじゃないかとか、考えていたと思う。

見守ってくれていた家族、両親、友だち。手術に携わってくださった沢山のスタッフの皆さん。

通院中から丁寧に説明をしてくれて、術中も頻繁に気遣ってくれて、そしてなんとか根治をと奮闘してくださったO先生。何度も様子を見に来てくれた病棟の看護師さん。

皆さんに、生かされています。

ありがとう。

さて、現実的な話。請求書が届いた。

高額療養費制度の医療費上限申請が通っていたため、自己負担はとても軽かった。

3泊4日の入院とカテーテルアブレーション手術。

自己負担は¥60,000強。

偶然というか何というか、昨年収入が多過ぎたせいで扶養から抜けていたので、国保に加入している。

が、収入が多過ぎたといっても¥7,000オーバー。収入が少なければ医療費上限も低くなるわけで。

扶養のままでいたらもう少し高かったはずだ。

ちなみに、もし健康保険制度がなかったら……。

¥2,300,000

高額療養費制度がなかったら……。

¥690,000

健康保険制度がこれほどまでにありがたいと思ったことはないね。うん。

S.Nakayama

一帖半執筆工房代表。 WEBコンサル・マーケ企業のフリーランスPMとして計9サイトの運営を指揮。DigitalCameraWorldの認定フォトグラファー。 現在は2社5メディアの進行管理をしながら文章校閲・校正者・ライターとしても活動中。

8件のコメントがあります

  1. トキコ

    某山さん、はじめまして、こんにちは。
    発作性上室性頻脈もちの43才主婦です。
    カテーテルアブレーションのことを調べていてこちらにたどりつきました。
    とても楽しく分かりやすく、詳細を知ることができました。
    今は体調はどうですか?
    期外収縮などはおこらないですか?

  2. saorockcat

    トキコさま
    コメントありがとうございます!
    発作性上室性頻脈をお持ちとのこと、辛いですね。
    9月にアブレーションをしまして、その後経過は順調でしたが、12月30日に再発しました。
    私は発作性上室性頻脈と心房細動をもっていたのですが、もし再発が心房細動の場合は、再度アブレーションをすることになりそうです。
    不安にさせてしまうようなレスで申し訳ありません。
    しかし一度再発して以降は発作は起きていません。
    記事にも書いた通り、信頼できる病院なので、再アブレーションの覚悟はしています!

  3. トキコ

    早々のお返事ありがとうございました。
    今、お忙しい時間ですよねf(^_^;
    うちも小学生(1、5年)の子供がいるので、勝手に親近感を持っちゃってます、スミマセン。
    12/30に再発とのこと、手術後はなかなか落ち着かないようですよね。
    私は発作性上室性頻脈になってから約5年、年に4、5回の発作が起きます。
    病院の若い先生は手術をすすめるし、ベテラン先生は、どちらでも、って感じなんですよね。
    でも発作が起きると辛いし(30分以内におさまることが多い)治ってくれるものなら、カテアブを受けようかとも思い、でも手術は怖くて迷っています。
    某山さんは手術を受けてよかったですか?

  4. saorockcat

    トキコさま
    遅くなって申し訳ありません!
    本当だ、同じぐらいのお子さんをお持ちなのですね〜嬉しい!
    発作の頻度と不整脈の種類、生活に支障があるかどうかがキーなのだと思います。
    心房細動は血栓ができやすい不整脈と言われていますので、もし上質性頻拍と併発しているのであれば医師は勧めてくるかと思います。
    私自身医療技術者として仕事をしていたのと職場に二人もオペ経験者がいたので、手術同意は即日でした。
    手術しなければよかったと感じたことはありません!
    トキコさんや私のように子どもをもっていると、自分中心の生活ができませんから、入院中だけでも上げ膳据え膳ですしね(笑)。
    平均的な2〜3時間のオペで済んでいればトキコさんに「ぜひ!」とオススメしたと思いますが、記事にあるようにオペが難航し、負担は軽くありませんでした。
    再発も含め、そういったリスクと不整脈に怯えない日々と天秤にかけてみると……トキコさんの場合いかがでしょうか。

  5. トキコ

    某山さん、こんばんは。いつもあたたかい心のこもったご返信ありがとうございます。表紙の写真、きれいな夕焼けの写真になりましたね。(^o^)
    某山さんのまわりにお二人もオペ経験者がいらしたのですか。それは心強いかもしれない。
    心房細動については、病院の先生から特に何も言われておらず、これから検査等で調べるのでしょうか。
    某山さんはどのくらい生活に支障がありましたか?
    いつも質問ばっかりですみません。
    急ぎませんので宜しくお願いします~。

  6. saorockcat

    トキコさま
    こちらこそコメントありがとうございます!
    生活上の支障……病院で採血業務に就いていたので、発作が起きると手が震えてしまって困りました。出勤しようとした瞬間に発作が出て足止めを食ったり。
    子どもの少年野球のお楽しみ試合最中に発作が出て楽しめないこともありました。
    頻度は、年に数回だったものがオペ前は1〜2週に一度になっていましたので「今発作が起きたらどうしよう」「今だけはやめて!」と不安な日々……。
    頻度が高くなく、血栓の危険も低い、生活に支障はさほどないということであれば、発作どめの薬(ワソランを処方されました)を都度服用するのもいいかもしれませんね!

  7. トキコ

    某山さん、こんばんは。ご無沙汰してしまいました。雪の影響は大丈夫でしたか?ちなみに私は千葉県の北西部に住んでおります。発作がでないようほどほどに雪かきしました。
    雪の写真も拝見しました。温かみがあって綺麗な写真ですね(^o^)
    今日、ついに来月中旬のカテアブの予約をしてまいりました。
    この1ヶ月間、なんだか緊張でドキドキしちゃいそうなんですが、やはり、いつ発作がおこるか分からない不安から開放されたい気持ちが強くなりました。
    頓服薬のワソランやサンリズムもけっこう効くようなんですが、その後に副作用の頭痛が残ってしまって。。。
    この時期、感染病予防の為、病院の入院患者の面会は、中学生以下の子供は立ち入り禁止らしいんです。それを今日知って、ちょっとショックでしたが。下の子とはそんなに長く離れたことが無かったのでいろいろ心配だし。まぁ病院のきまりだから仕方がないですね。
    某山さんのブログで少年野球のお話のところ、よく読ませていただきましたが、すごーくお気持ちが伝わってきましたし、共感しました。
    うちの長男5年生は野球はやっておりませんが、運動が得意なわけではないので、やはりチームプレイ的なものは粗雑に扱われることが多く、、、(;´д`)
    それでも本人は明るく努めてくれるので、某山さんの気持ちがよく分かります。その後はどうですか?ご長男君、頑張ってますか?
    まとまりのない文になってしまいましたが、まずはご報告でした。トキコ

  8. saorockcat

    トキコさま
    コメントありがとうございます!
    写真へのお言葉もありがとうございます、とても嬉しいです〜!
    ご予約なさったんですね!成功を祈っております。今の時期の面会はかなり厳しくなっていますよね。お子さんがいると不安になるかとは思いますが、例えばskypeとか、顔が見える系の電話でお話するとか!
    きっと手術への不安、後遺症への不安、術後の生活への不安などあると思いますが、子どもの元気な姿を見るとなぜかそれらが軽くなります!
    長男は変わらずコツコツと頑張っています。頑張ってもうまくいかないことがある、ということに小学生の時点で気づいたのは彼にとってのチャンスになればいいなと思います。あれから色々あったので、またブログに書こうと虎視眈々狙っています笑!
    まずは入院まで、発作が起きませぬように。

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