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飼い猫が気管虚脱だと診断されたのが2015年。その時点で12歳。

猫にしては高齢で、かつ体が大きくならない子(当時2.5kgぐらい?)だったことから、外科手術はリスクが高すぎると判断されました。

ステロイドの内服で様子を見ていくことになりました。サプリメントも使っていましたね。

この度、18歳で息を引き取りました。

大方の予想を裏切り、自宅!腕の中で!看取りましたよ!

こういうこともあるんですよ、という程度ですが、猫の気管虚脱で大変な思いをしている飼い主さんに、ぜひお伝えしようと思います。

気管虚脱の最期は酸素室、と言われていた

酸素濃縮機の酸素を吸っています

そうなんです。気管虚脱の子の最期は酸素室。それは覚悟しておいてねと先生に言われていました。

酸素室というと病院をイメージしますが、自宅に酸素室があれば自宅で看取ることもできるわけです。

ですから酸素濃縮器を買い、ひとまず簡易酸素室という形で小屋も作りました。

気管虚脱は治らない

気管虚脱は治らないという獣医師が多いんです。病状を悪化させないようにコントロールしながら生きていくことになります。

ただ、外科手術で「治る」という病院もあるんですよ。病状や年齢によっては手術できない子もいますし、手術できてもその後の合併症が起きるかもしれない。でも、治る子もいます

うちの猫は手術ができないので、治りません、病気とうまく付き合っていきましょうね、ということになったわけです。

なぜ最期が酸素室なのか

気管虚脱は感染症や炎症によって悪化するそうですよ。また、咳が続けば体力が奪われ、免疫力は当然低下していきます。

ステントを入れて気管を物理的に広げない限り、気管虚脱は進行します

うちの猫はステロイドを飲んでいましたが、気管虚脱の進行を止めることはできません。

気管虚脱を悪化させる「炎症」を起こさないために飲むんです。

つまり、気管虚脱が進行する限り、気管虚脱で命を落とす可能性が高いってことですね。

気管虚脱による呼吸困難は、一気に悪化して窒息に至ることもありますが、大抵は少しずつ悪化します。

酸素濃度20%で足りなくなれば酸素吸入が必要になり、更に進行すれば、一時的ではなく常時酸素吸入が必要です。

その結果、最期は酸素室で看取る「ケースが多い」ってことでしょう。

副作用で命を落とすリスクも

呼吸状態の悪化だけでなく、ステロイドの副作用による内臓機能低下で命を落とす可能性もあるっちゃある、と言われました。

だからステロイドは1錠でも少ないほうがいい、と。

特にうちの猫は体が小さいので、ものすごく心配されました。

年に1回血液検査を受けて、副作用が出ていないか確認してもらっていましたね。

幸いなことに、うちの猫は加齢による腎機能低下程度で、副作用は出ていないようでした。

猫の気管虚脱はどうなったのか

コストコの品にまぎれる猫
コストコの品にまぎれる猫

ステロイドとサプリメントを毎日飲み続けても咳は出るし、ときどき呼吸困難の発作が起き、その度に自宅で酸素吸入をしていました。

年に数回は夜間救急にかかって、病気の影が濃くなってきていないか不安で、怖かったです。ずっと。

そんな生活を数年続けていたところ、息を引き取る半年ぐらい前から、なぜか咳が出なくなったんです。

理由はわかりません。猫の咳を警戒して大掃除しない家ですから、ハウスダストだってたくさんあったでしょう。

夏場は暑くて呼吸が増えて、気管虚脱が悪化しやすいと言いますが、我が家、エアコンないんですね。

悪化する要因はたくさんあるのに、なぜか症状が消えてしまったんです。

気管の状態がどうなっていたかはわかりません。レントゲンは撮りませんでした。

ただ、どう考えても非可逆の病気ですから、気管に弾力が戻って広がったってことはないと思うんですが……。

結局、この半年は薬もサプリメントも飲みませんでした。

この猫、脱走癖があるんですね。なので、別の猫と入れ替わったんじゃないか説も浮上しました。

突然の危篤を乗り切る

東京オリンピックの真っ最中でしたね。嘔吐から急激に食欲がなくなり、水も飲めず、脚に力が入らず歩けなくなりました。

体重は2kgを切り、体温も36度台まで下がったため、これ以上何も食べられない状態が続けば「もって48時間」と言われました。

点滴が入らない

これだけ痩せてしまうと、点滴の針なんて入らないんですよ。入っても、すぐ漏れちゃう。

点滴は治療というより補液目的なんですが、その目的も果たせない。自力で水は飲めるんです。量はたかが知れています。

この猫、今まで呼吸困難で何度も死にかけており、「年が越せるかどうか」とか言われたのが5年前。

とにかく強い。

悪魔と取引

もって48時間と言われたその日の夜から、いきなりチャオちゅーるを食べ始め、あっという間に体温が上がり、回復したのでした。

命と引換えに視力を失ってしまったんですが。いやいや、どんな悪魔と取引したんだ、よ。

やっぱりこのときも気管虚脱に怯えました。これだけ体力が弱ってしまうと、気管なんてすぐ潰れるんじゃないかと。

でも呼吸には全く影響が出ませんでした。

老衰という穏やかな最期

11月の終わり頃、視力が完全になくなったようでした。

それとともに脚の動きがおかしくなり、翌日には歩けなくなりました。何が起きたのかよくわからないけれど、とにかく急激。

前回は自力で水は飲める、頑張れば水場まで移動できる状態でしたが、今回移動は無理飲むと吐く

たった1日で何があった?!ってぐらい痩せてしまいました。

治療、どうする?

病院にいけば補液してくれるけれど、針を何度も刺され、おしっこばかり出る。自力でトイレに行けない。でも、行きたいから動こうとする。

彼女の体力を無駄に消費する気がしました。

家族と話をした結果、これは病気ではなく老衰、家でできることをして看取ってあげようという結論に至りました。

できることってなんだろう

できることなんて、ないんです。話しかけたり、動きたいようなら体を支えて歩いているっぽくさせてあげて、トイレに連れて行ってあげるくらい。

そう、トイレ!トイレに執着していましたね。

徹夜で2日間看病していたんですが、動きたくてジタバタしたとき、なだめて寝床に戻すと「ちがーう!戻すな!」と再びジタバタ。

こういうときトイレに連れていくと、おしっこの体勢をとるんですよ。最期は何も出なくなったけれど、それでもあの体勢をとって、満足すると顔をこちらに向けて「帰るぞ」と。

「できること」って書きましたけど、大切なのは彼女が「してほしいこと」の中で「できること」を探すこと

人間がやってあげたいことをやっても、彼女は幸せになれないですよね。ご飯を食べさせてあげたいからって強制的に餌をあげるとか。結局吐いちゃいますもん。

意識混濁状態で、彼女のジタバタが何を意味するのかわからなくても、子どもたちと一緒に必死で考えました。何してほしいんだろうか、と。

彼女のことだけを必死で考える、っていうのも、看取りのひとつなのかなと、今は感じています。

最期は腕のなかで……え、いつ?

すやぁ〜っと終わりを迎えました

酔っぱらいのしゃっくり的なものが出始めたんです。

しゃっくりは十数秒に1回くらいで、苦しそうではなくて、でもしゃっくりとしゃっくりの間に呼吸していないように見えました。だから、これが最期だと気付いたんです。

最期は痙攣したり、暴れたり、大きな声で鳴いたりするものだと思っていたので、抱っこしながらその合図を待っていました。

……合図が来ない!

え、こういうのアリなの?!心停止したタイミングもわからなくて、「ねえ、これって、もう動かないのかなあ」「わかんない、心臓ドキドキしてる?」「よくわかんない」とちょっとした家族会議が始まる事態に。

それぐらい、本当に本当に静かに、穏やかに、次男の腕に抱かれ、夫の腕に抱かれ、最期は私の腕の中でしゃっくりが止まり。

ありがとう。頑張りすぎだったよ。もういいんだよ。大好きだよ。

魂がスーッと抜けていくというより、霧になって空気に溶け込んでいくみたいに、本当に静かに、穏やかに、息を引き取りました。

長男ですか?ちょうど美容院に行っていて……。その後ラーメン食べていたらしく……。はい。

できなくてもいいから、相手の望みを考える

ほんと、これに尽きます。

私たちは気管虚脱に対してステロイドの内服を選択しましたが、週1回点滴っていう選択肢もありました。

うちの猫はこの2択のうち、どちらを選ぶか。

人間同士でも相手の思考なんて読めないわけで、猫の考えなんてもっと読めない。だから間違えるかもしれない。

でも「この子だったらどっちが幸せかな」と全力で考えてあげることが大事ですね。

補液して水分が摂れても、トイレに自力で行けない状態だから漏らしてしまう。トイレに執着している彼女にとって、それは幸せなのかどうか。

目の前で確実に命の色が薄まっていく彼女を見ていて、私は一度も「ごめんね」と言いませんでした。考えもしませんでした。

最期の2日間はずっとつきっきりで、もちろん大変だったけれど、家族も同居猫もみんなが彼女のことを考えていました。

いい最期だったと、胸を張って言えます。彼女は幸せな最期を迎えたと、確信しています。

猫の気管虚脱という比較的珍しい病気に直面している飼い主さんは、どうか、猫ちゃんの気持ちを推測して、優先してあげてください。

飼い主の「してあげたい」ではなく、猫ちゃんの「してほしい」を優先してあげてください。

1日でも、皆さまの元で猫ちゃんが元気に過ごせますように。

椿 享年18歳

S.Nakayama

一帖半執筆工房代表。 WEBコンサル・マーケ企業のフリーランスPMとして計9サイトの運営を指揮。DigitalCameraWorldの認定フォトグラファー。 現在は2社5メディアの進行管理をしながら文章校閲・校正者・ライターとしても活動中。