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完成披露試写会でもないかぎり、映画はチケット争奪戦なんてない。

だから観たいなと思ったら気軽に、時間さえあれば観に行ける。

一時期、単館上映系の映画にハマって、仕事(当時川崎)帰りに渋谷まで出て映画を観て帰るということをしていた。

満員にでもならない限り、映画を逃すことはない。

 

ここ数年、舞台の話をよく耳にするようになった。

演劇も、ミュージカルもそう。

アニメを舞台化する「2.5次元」と言われる舞台も最近は凄く増えている。

原作→アニメ→映画・舞台、みたいな流れで我々は限りある資金をむしり取られることになる。

ええ構いません私はATMです。

 

昨年、知人がとある漫画(アニメ)の舞台のチケット争奪戦を勝ち抜いた。

私は端っから戦いに挑まず、周囲の感想を聞くだけで満足じゃ〜と思っていたけれど、その知人が連番の1枚を譲ってくれたので、池袋のサンシャイン劇場に足を運んだ。

単純な言い方をすれば、ナマの演技とその緊張感っていいなって。

演じている方々の緊張感は勿論のこと、観客も同じように緊張で張り詰めている。

その空気がなんとも言えず新鮮で、映画にはない高揚感をもたらしたなとは思っている。

 

そして先日、とある舞台を観に行った。

舞台の情報を見て「うわ、これは観たい」ってザワザワして、チケット発売情報を確認して。

公演回数が少ないし、私の生活時間帯的に行ける公演が限られてしまっているので、まぁダメ元で申し込んでみた。

それが当たったんだよね。

公演当日が誕生日の知人と二人、東京芸術劇場に行った。

 

舞台「Yè -夜-

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ひと言でいうと

男娼として体を売り、誰とも関わらず(この場合は誰の世話にもならず、みたいな意味)生きている水仙(スイシェン)。

水仙と出会い、彼に惚れ込んでしまうゲイの夜来香(イエライシャン)。

水仙と同じく体を売って生きる娼婦の薔薇(チアンウェイ)。

三人が出会って、素直になれない自分に気付き、前に進もうとする話。

15歳以下鑑賞不可の舞台です。

 

のっけから凄い

暗転する会場、さて、舞台にどんなふうに明かりが灯るのか。

そう思ってステージを凝視していたら、客席中段っていうの?から水仙が、そしてその後ろから夜来香が。

客席中央を通ってステージ上に上がった彼ら、いきなりディープキス、そして足元にあるベッド(なのかよくわからない)になだれ込み、おっ始める。

男同士の性的なアレコレがある舞台だとは知ってたけど、もしかしてこれからずっと、こういうのが続くのか……。

もたねえよ、色々もたねえよ、HPゼロだよ……。

見てはいけないものを見ているような、例えるならばお金を払って覗き部屋に入って、マジックミラー越しに彼らの情事を見ているような、そんな背徳感。

でもそれを「エロい」なんていう俗っぽい言葉で表すのがためらわれる、耽美さに満ちていた。

BGMも相まってどこか切なさもあり、痛々しさもあり。

 

なんか凄い役者さんがいた

水仙が客引きをする仕事場に、ちょいちょい顔を出す夜来香。

タイミングを見ているかのように夜来香の携帯電話が鳴る。

相手は、夜来香の先輩。妻帯者。綺麗な奥さんがいる、とても幸せそうな人。勿論電話の向こうの顔は見えない。

頻繁に連絡する様を見ていると、もしや先輩は夜来香のことを……と邪推してしまう。

それもありうる世界観だけど。

 

ある日客として来た刺(ツァ)という男。

見るからに強面で目付きが鋭い。

彼は男娼である水仙をバカにし、そして薔薇を買って消えていった。

けれど薔薇はその後走って逃げてくることになった。

刺は、金を払って薔薇に暴力を振るったわけ。

水仙が刺に物申すんだけど、刺はまた水仙に罵声を浴びせ、去っていく。

 

その男、後日また薔薇を買おうとするんだけど、水仙が止めに入った。

俺を買えよ、と。金さえくれりゃ何されたっていい、と。

「興ざめした」とか言って刺は帰っていくのかと思いきや、先に歩く水仙の後をついていってしまう。

薔薇、あたふた。

何やかやあって薔薇にアイスを買いに行ってた夜来香は、彼女から一部始終を聞いて、彼らの後を追うわけだ。

そしてたどり着いたのは、水仙と夜来香が初めて愛し合った場所。

そこで水仙は、刺から暴行を受けまくっていた。

勿論、夜来香が止めに入るわけだけど。

 

「先輩」

 

あ?あぁ?!

刺は!夜来香の!先輩だったの!アッー!

幸せな生活を送っているようだった刺だけど、実は色々抱えていたらしい。

・嫁の飯がマズい(いや、これは放っておいてやれよ)

・嫁の親にまでヘコヘコしなきゃいけない

・子どもができないのは自分のせいだと決めつけられている

3つ目が多分、刺の心をズタズタにしてるんだろうな。

そんな鬱憤を晴らすために、金を払って暴力を振るってたわけですわ。

 

でね、刺を演じていた谷口賢志さんという方の演技が、凄かった。

凄かった、としか言えない自分が愚かだ。

脅す声、目つき、殴る寸前の狂気の顔、蔑んだ目線。

心に抱えていたものを吐き出す悲痛な声、歪んだ顔、泣きそうに崩れる身体。

見ているこちらが苦しくて、息ができなくなるほどで、悲しいシーンでも感動のシーンでもないのに涙が出た。

こういう感じは多分、映画では出せないんだと思う。

劇場にいる客が吸っている空気や触れている空気の色も温度も変えてしまう力。

ざっくり言えば「感情表現」なのだけど、刺が感じている痛みや悲しみが、電線を伝う電気みたいにこちら側に流れて、見ている者に同じ思いを感じさせる力。

本当に、凄かった。

 

舞台はいいぞ

結局、主人公にあまり触れないブログになってしまった。

とにかく、谷口さんの演技は本当に素晴らしかった。

そして水仙を演じた北村さん(きたむー)や、夜来香を演じた村松さん(のすけ君)の体当たり演技も負けず劣らず凄かった。

たった一歩つまずいてバランスを崩したり、舞台から落ちてしまったり、階段を踏み外してしまわないか、っていう無用な心配までしなきゃならないのが舞台なんだな。

だって、やり直しがきかないから。

溜まっていく公演の疲れを出さないようにとか、メンタルの乱れを出さないようにとか、数えたら終りが見えないぐらいに考えることが沢山あるんだと思う。

 

そんな役者さんたちの全力の舞台。

観ることができて本当によかった。

小説を書く上で、色々なヒントを得た気がした。

ぜひ、再演して欲しい。

S.Nakayama

一帖半執筆工房代表。 デジタルマーケ企業のフリーランスPMとして計9サイトのコンテンツ制作を並行指揮した経験を持つ。 現在は企業の人材育成コンサルやメディア進行管理をしながら、グラフィックデザイン・文章校閲・校正者・ライターとしても活動中。 DigitalCameraWorld認定フォトグラファー、臨床検査技師。